介護保険、厚労省案出そろう 「正直者がばかを見る仕組み」の声も

   

介護保険、厚労省案出そろう 「正直者がばかを見る仕組み」の声も

負担の増減影響がある人の年金収入(写真:産経新聞)

 

 高所得者の利用料2割負担への引き上げ、介護保険料の軽減強化、特別養護老人ホーム利用時の補助の縮小など、介護保険サービスの充実化と効率化の具体案が出そろった。高所得者や資産家には負担増、低所得者には負担減で、厚生労働省の検討会でも「総論賛成」がほとんど。だが、「豊かさ、貧しさ」を正確に知る手段は限られ、市町村からは実務に不安の声が上がる。法改正には紆余(うよ)曲折がありそうだ。(佐藤好美)

 ◆やりきれるか

 先月末、東京都内で開かれた「社会保障審議会・介護保険部会」。低所得者が特別養護老人ホームに入った場合に受けられる「食費・居住費の補助(補足給付)」を縮小する案について、全国市長会の大西秀人・高松市長は厚生労働省案に疑問を呈した。

 「資産の勘案は必要だが、実務がやりきれるのか。金融資産を自己申告してもらい、申告がなければ後でペナルティーを科すというが、金融機関は生活保護でさえ非協力的だったのに、市町村が介護で情報を取れると考えるのは難しい。実施できる制度的な裏付けが必要だ」

 厚労省が出したのは、預貯金や不動産資産が多い特養入所者を、食費・居住費の補助対象から外すという提案。現在の対象は「住民税非課税世帯」で、預貯金がある人も不動産資産がある人も含まれる。原案通り実現すれば、一定以上の預貯金や不動産資産のある人は、現在5・2万円(新型)の特養入所費が13万円以上になる。

 問題は実務。介護保険の窓口である市町村には、住民の預貯金に関する情報はない。厚労省案でも、頼りは利用者側の申告だ。市町村は必要なら金融機関に照会し、「不正受給者には3倍のペナルティーを科す」(厚労省)とする。だが、申告すると負担増になる仕組みに、別の委員からも「正直者がばかを見る仕組み。公平性に納得が得られる方法が重要」などの声が上がる。

 ◆「偽善的な状況」

 「資産家」を補助対象から外す案は以前からあった。しかし、実現しなかったのは、個人が所有する預貯金や有価証券の情報をきちんと把握する手段がないからだ。このため、現在は預貯金が多い人も不動産資産が多い人も、「住民税非課税世帯」なら低所得者向け施策の恩恵を受けることができる。

 今回、厚労省が提案に踏み切ったのは、もはや負担を求める「先」がないから。豊かさをつかみきれない現実は承知のうえとあって、介護保険部会では、厚労省自身が「実務に課題が多いのは痛感している」と、やむにやまれぬ選択であることをにじませた。

 資産を捕捉する手段は脆弱(ぜいじゃく)だが、資産家に補助を出す現状が正しい姿でないことも事実。この日の会議で慶応大学の土居丈朗教授は、こう発言した。「あたかも新たな不公平が生じるように見えるかもしれないが、現在は総合課税の所得のみがとらえられ、(分離課税の金融所得などは把握されず)課税所得が少ないことで負担が軽減される、いわば偽善的な状況がある。所得を網羅的に把握することが不可能な(現在の)段階で、負担できる経済力がある人にはご負担いただくことで、今の不公平な状況を少しでも改善できるものと評価している」

 ◆誰が低所得者か

 高齢者には負担減になる保険料軽減案も、この日の会議で示された。対象になれば、現在は保険料の50~25%が減額されるが、それが70~30%に拡大される。

 原資は消費税引き上げ分から約1300億円。対象者は従来通り「住民税非課税世帯」の人で、65歳以上の3人に1人と多い。

 だが、資産家を把握しきれないのと同様に、低所得者も絞り込みが難しい。保険料軽減は「夫の年金収入は198万円、妻の年金収入が79万円」という厚生年金のモデル年金世帯の夫婦も対象。65歳以上を対象にした税控除「公的年金等控除」が、最低でも120万円と大きいためだ。さらに、保険料軽減の対象者には、遺族年金など非課税年金が多い人も交じる。

 誰が豊かで、誰が貧しいのか-。

 それが分かる制度の整備は喫緊の課題だ。土居教授は「将来的にはマイナンバーも活用し、所得税・住民税で総合課税されている所得のみならず、分離課税されている金融所得も含めて、的確に『所得』を定義できるようにすべきだ」としている。

 ■「負担の公平化」に関する改正案

 《改正案(1) 利用料2割負担への引き上げ》

 A案:年金収入280万円以上(合計所得160万円以上)

 B案:年金収入290万円以上(合計所得170万円以上)

 個人単位で適用されるので、配偶者の収入にかかわらず、個々の年金収入がこのラインを超えれば対象。実際に2割負担になるのは本人のみ。

 《改正案(2) 保険料軽減》

 対象は65歳以上で住民税非課税世帯。本人の年金収入が80万円以下:7割軽減(現在は5割軽減)▽年金収入が80万円超~120万円以下:5割軽減(同25%軽減)▽年金収入が120万円超:3割軽減(同25%軽減)

 《改正案(3) 特養の食費・居住費の縮小》

世帯分離しても、配偶者が住民税課税なら除外▽単身で1000万円、夫婦で2000万円程度の預貯金等がある人を除外▽固定資産税評価額で2000万円(公示価格などで約3000万円)以上の不動産のある人-を除外。